2026年2月3日(火)開始 2026年2月15日(日)読了 (7日 5時間1分)
作品情報
タイトル ほどなく、お別れです それぞれの灯火
著者 長月天音
シリーズ
初刊出版社 小学館
レーベル
発売日 2020年2月27日
初刊発行日 2020年3月3日
書籍情報
出版社 小学館
レーベル 小学館文庫 な-38-2
判型/ページ数 文庫判/336ページ
発売日 2023年3月7日
初版発行日 2023年3月12日
版数 初版第8刷
発行日 2025年6月8日
定価(本体) 720円
購入日 2026年1月29日
【あらすじ】
人よりも“気”に敏感な体質を持つ清水美空が、スカイツリー近くの葬儀場・坂東会館で働き始めて一年が経とうとしていた。若者や不慮の死を遂げた方など、誰もが避けたがる「訳あり」葬儀を好んで引き受ける葬祭ディレクター・漆原のもと、厳しい指導を受けながら、故人と遺族が最良の形でお別れできるよう、奮闘する日々を過ごしている。

葬儀場が繁忙期を迎える真冬のある日、美空は、高校の友人・夏海と偶然再会する。はしゃぎながら近況報告をし合う二人だったが、美空が葬儀場で働いていることを聞いた夏海は一転、強張った表情で美空に問う。「遺体がなくても、お葬式ってできるの?」。夏海の兄は、海に出たまま五年以上も行方不明だった。家族の時間も止まってしまっているという。

交通事故に遭った高校生、自殺した高齢女性、妻と幼い息子二人を遺し病死した男性、電車に飛び込んだ社会人一年目の女性、それぞれの「お別れ」に涙が止まらない・・・

詳細は下記の通り。
クリックして詳細を表示(ネタバレ注意!)
プロローグ 美空は、高校の美術室で友人と絵を描いていた頃の懐かしい夢を見る・・・
第一話 揺蕩う心 突然のもらい事故で命を失った17歳の少年・片桐圭太。その死を受け止められない母親は加害者に憎しみを向けるのだが・・・
第二話 遠景 家庭の中で孤独を気に病み自死を選んだ90歳の老女・大垣ミヨ。喪主は老女を邪魔ものにしていた義理の息子。老女の思いを知っていた看護師・坂口は、葬儀で老女の思いを手紙にする・・・
第三話 海鳥の棲家 幼い二人の子供と妻を残して病気で亡くなった45歳の夫・斉木雅人。残された妻は気丈にふるまうが、そこには夫との切ない約束が・・・
第四話 それぞれの灯火 憧れの職場で働き始めた矢先に駅で電車に弾き飛ばされた若い女性・間島沙絵。自殺か事故か、何かしてあげられなかったのか後悔ばかりの両親・・・美空の初めての司会の通夜となる・・・
エピローグ 六年ぶりに海路が亡くなった海を訪れる妹・夏海と恋人・坂口、そこに同行する美空と漆原と里見。そこで二人はようやく前に進む決意をする・・・
【感想】
2月6日公開の映画「ほどなく、お別れです」のシリーズ小説、第2弾です。

美空が葬儀場で働き始めて1年、やっと司会を任されるところまでが描かれています。今回の葬儀エピソード4話の他に、全体を通して、美空の親友・夏海の海で行方不明となっている兄と、残された恋人・坂口の揺れる思いも描かれています。

第1作同様、それぞれの話を読んでいると涙が流れてきて、人前で読むことが憚れるような内容です。映画と違って、映画には登場しなかった漆原の大学時代の友人であり僧侶である里見の存在も大きいです。

第一話では、息子を殺した事故の加害者への憎しみをいかに穏やかな息子との別れに気持ちを切り返すことができるのかという、世間的によくあるケースです。里見が憎しみの感情にとらわれる母親に、息子の話をすることによって息子に目を向けさせるという流れですが、なかなかうまくいくかどうか難しいケースですし、自分が親だったらその憎しみを抑えることができるかといろいろと思ってしまいました。

第二話は、闘病していた娘の看病を一手に引き受けていた母親が、娘が亡くなったあと娘の夫や孫に対して孤独感を持ってしまい自殺するというケースです。厄介払いができたと思っていた娘の夫に対して、娘の看病をしていた時に知り合っていた坂口という看護師の書いた手紙で、娘の夫や孫が母親の気持ちを知るという切ない話です。高齢になれば、それまでの恩などを忘れて邪魔者扱いにしてしまうということもよくある話です。私も自分の親に対してもそういう気持ちが無かったといえば嘘になるかもしれないなと心が痛みました。この話の中で、坂口が美空の親友・夏海の兄の恋人だったということがわかります。

第三話は、癌で闘病中の夫との「自分が死んでも泣かないでほしい」という約束に縛られて、妻は感情を抑えて気丈な振る舞いしかできずに、素直な感情で夫を送りだせません。この話でも、里見が夫はどういう人だったということを妻と話し合ったことで、夫のことを思い出して素直な感情で送り出すことができることになるのですが、自分が死んだ時に残された人のためにと思って話したことが、逆効果で残されたものに辛い行動を強いることになることもあるということを考えさせられました。

第四話は、同じ年代の同じ女性の葬儀ということで、漆原は美空に初めて通夜の司会を任せる話になります。亡くなった女性の両親は、娘は自殺なのか、それほど悩んでいたことに気づくことができなかったと自分を責めて嘆き悲しんでいて、このまま葬儀をしても両親はずっと後悔しながら過ごすことになるということに、美空や漆原は心を痛めます。ここでも里見が女性が最後に見た景色は空だったということを美空に伝えることによって、亡くなった女性はけっして悩んで自ら命を絶ったのではないと信じ、両親に女性がどういう気持ちで仕事をして、まわりの人たちとどんな話をしていたかを伝えることにより、前を向いて娘を送り出すということになります。事故でも自殺でも理由がなんであろうと、娘が突然命を落としたら、後悔することが山のように溢れそうです。そんな思いが重なってたまらない内容でした。

横串を差す夏海の兄の話も、死んだことを信じたくないというものと、死んだことを認めて前に向いて歩きだそうと考えるものとの苦しさを強く感じました。災害で遺体の見つからない家族は、そういう辛い思いに何年も縛られるのかと思ってしまうと、軽々しく忘れて前に向かって歩きましょうなんてことは言えないのかもと思ってしまいます。

この作品は、それぞれのエピソードに現実味があって、身近な人が亡くなった時の残された人間の感情がダイレクトに心に響いてきます。この作品もとても心を打つ内容でした。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。