2025年12月26日(金)開始 2026年1月10日(土)読了 (2日 4時間58分)
作品情報
タイトル 52ヘルツのクジラたち
著者 町田そのこ
シリーズ
初刊出版社 中央公論新社
レーベル
発売日 2020年4月18日
初刊発行日 2020年4月21日
書籍情報
出版社 中央公論新社
レーベル 中公文庫 ま-55-1
判型/ページ数 文庫判/312ページ
発売日 2023年5月25日
初版発行日 2023年5月25日
版数 再版
発行日 2023年6月10日
定価(本体) 740円
購入日
【あらすじ】
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる・・・

詳細は下記の通り。
クリックして詳細を表示(ネタバレ注意!)
 1 最果ての街に雨 ひとりで大分の海辺の町に引っ越してきた三島貴瑚。そこはかつて祖母が住んでいた場所で、そのせいで貴瑚は町の噂の的となっていた。そんな中で家の修繕を請け負っていた村中には心を開き始める。夏の長雨のある日、貴瑚は虐待の痕があり言葉を発することのできない少年と出会う。
 2 夜空に溶ける声 少年は母親の琴美から暴力を受け、祖父の品城はそれに目を背けていた。少年は毎日貴瑚の家を訪れるようになっていた。貴瑚は少年に52ヘルツのクジラの声を聞かせ、その意味を話す。貴瑚は名前を言わぬ少年を52と呼ぶことにし、この少年を助けたいと思う。
 3 ドアの向こうの世界 5年前、貴瑚は義父の介護に明け暮れていた。義父が誤嚥性肺炎で入院した時、貴瑚は母からひどい言葉を浴びせられて絶望し死を考えていた。その時、偶然親友だった美晴と美晴の同僚・アンさんと出会う。美晴とアンさんは貴瑚から話を聞きだし、母親との決別を実現させる。
 4 再会と懺悔 貴瑚は少年の母親琴美と会い、自分が少年の世話をすることを伝える。少年からどうして52ヘルツのクジラを知ったのかと問われ、貴瑚は実家を出た後にルームメイトだった美音子のことを話す。少年から父方の叔母の話を聞き会いにいくことを考えていたと時に、思いがけない来客があった。美晴だった。貴瑚は美晴と少年と3人で、少年の叔母のいる小倉に向かい、そこで藤江という女性から少年の話を聞き、そこで少年の本当の名前は愛(いとし)だと知る。ホテルに戻った貴瑚と美晴は、アンさんが亡くなった話から昔のことを話し出す。
 5 償えない過ち 貴瑚は実家を出た後、働いていた工場で新名主税と出会う。主税は工場の社長の息子で、ある事件をきっかけに親しくなり貴瑚は結婚も考える仲となるが、その時からアンさんの態度が変化し、貴瑚と美晴の前からいなくなる。そんな時、主税は別の女性と婚約しているという噂が広がり、貴瑚の耳に入る。また、主税の父親の元には、主税が貴瑚と付き合っていると書かれた手紙が届く。
 6 届かぬ声の行方 アンさんは、父親だけではなく会社と婚約者に同様の手紙を送った。それに激怒した主税はアンさんのことを調べ、アンさんがトランスジェンダーでアンさんは女性であり男として貴瑚を幸せにできない嫉妬からだと決めつけて、アンさんとアンさんの母親を責めた。そしてアンさんは自ら命を絶った。貴瑚はアンさんの行動が自分を守るためだったと知り、トランスジェンダーがために自分の気持ちを発することができなかったアンさんの苦悩を感じ取れなかったのは、自分が一生背負う罪だと思っていた。
 7 最果てでの出会い 小倉から大分に戻った三人は、品城が「貴瑚が孫を誘拐した」と言っていることを村中から聞く。少年と一緒に暮らしたいと願う貴瑚は、村中の祖母が琴美の母親のことを知っているらしいと聞いて、村中の祖母さちゑに話を聞きに行く。
 8 52ヘルツのクジラたち 3人は、さちゑの紹介によって少年の祖母昌子と会う。そこで昌子のいまの夫秀治が、少年が15歳になって自分で後見人を選べるまでは昌子が後見人となり、2年後までに貴瑚が後見人となれる基盤を作ることを提案する。
【感想】
「52ヘルツのクジラたち」の映画を観たのが2024年3月、映画館の中にもかかわらずポロポロと大粒の涙を流してしまった映画でした。映画の世界に満足して、その感動をそのままにしたくて原作小説は手許にはあったもののずっと読まないままだったのですが、昨年末に読み始めて残りを一気に読み終えました。

映画の記憶も薄れつつあるのか、小説での登場人物と映画のキャストが重なることもなく、文字から浮かぶ人物、情景に入り込むことができて(たまに映画での情景が重なってしまいましたが)、新鮮な気持ちで楽しめました。親からはムシと呼ばれ貴瑚からは52と呼ばれる少年が出てきたあたりから心を揺さぶられる会話が多く、涙を拭ったり鼻水となった涙をかんだりということの多い作品でした。

この物語は、親から子供への虐待、親に理解されないトランスジェンダーで心に傷を抱かえ、それを誰にも言えずに孤独を感じている人たちへどんな寄り添い方ができるのか、誰にも聞こえない声を52ヘルツのクジラの声に例えてその声をいかに感じ取れるのか、絶望を感じている人々がどうすれば聴こえる声を発してくれるのか、ということを考えさせてくれました。絶望を味わった貴瑚でさえ、アンさんの苦悩を聴くことができなかったのですから、耳に届かない52ヘルツの声を聴くのはとてつもない優しさと感度が必要なのだと思います。簡単なことではありません。簡単ではありませんが、自分のことよりも大切な相手のことに気を配ることから始まるのかもしれません。

この作品は、自然な会話の中に心に響く言い回しが詰まっています。貴瑚が介護に明け暮れていたことを知った時のアンさんの言葉、アンさんが貴瑚を連れ出す時に母親に言った言葉、少年の本音を引き出すための貴瑚と少年の会話、まわりの優しい美晴、村中、冷静に状況を見極めているさちゑ、それぞれの行動や言葉、どこもすべて感動的で素敵でした。

もう一度映画を観てみたくなってしまいました。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。