2025年5月13日(火)開始 2025年5月14日(水)読了
作品情報
タイトル 一次元の挿し木
著者 松下龍之介
シリーズ
初刊出版社 宝島社
レーベル 宝島社文庫
初刊発行日 2025年2月19日
書籍情報
出版社 宝島社
レーベル 宝島社文庫 ま-5-1
判型/ページ数 文庫判/384ページ
初版発行日 2025年2月19日
版数 第3刷
発行日 2025年4月28日
定価(本体) 818円
購入日 2025年4月19日
【あらすじ】
ヒマラヤ山中のループクンド湖周囲で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝学を学ぶ七瀬悠は、担当教授の石見崎明彦から、その人骨のDNA鑑定を頼まれる。その結果、その人骨は四年前に失踪した妹のものと一致した。二百年前の人骨が、四年前に失踪した妹のDNAと一致するという不可解な鑑定結果を石見崎に伝えるために石見崎宅に行ったところ、石見崎は何者かに殺害され、人骨も研究室から盗まれた。インドでは、その人骨を石見崎に送った調査員も襲われていた。悠は石見崎の姪で唯と名乗る女性とともに、妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出すが、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく・・・

詳細は下記の通り。
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プロローグ 24年前のインド、ウッタカーランド州のマラヤ山中、氷河湖ループクンド湖。石見崎明彦、七瀬京一、仙波佳代子が二百年前の人骨を発掘・・・
第1章 七瀬悠(はるか)は、失踪した妹・紫陽(しはる)の葬儀をしようとする義父・京一に反発。そんな時に、担当教授の石見崎明彦から24年前に発掘した人骨のDNA鑑定を頼まれる。そのDNAが紫陽のDNAと一致する・・・
第2章 インドでは、24年前の発掘調査員のところに、牛尾と名乗る男が現れる。一方、DNA鑑定の結果を信じられない悠は、石見崎の自宅を訪れ、石見崎の遺体を見つける。そして研究室からは人骨が盗難されたとの連絡が入る。石見崎の通夜の夜、悠は石見崎の姪・唯に声をかけられて、悠は妹・紫陽を、唯は石見崎の娘・真理を探すことで協力する・・・
第3章 悠と唯は石見崎のパソコンから、仙波佳代子の関連を知る。ふたりは仙波佳代子と接触し、石見崎の殺害現場で見つけた髪の毛が仙波のものだと突き止める。そんな時、悠は平間孝之という記者の接触を受ける・・・
第4章 悠と唯は、仙波から情報を得るために仙波邸を訪れ、そこで隠れて見たパソコンで殺される直前の石見崎からのメールを発見する。研究室に戻ってきた悠の前に牛尾が現れ、調査から手を引くように警告される。そこで、二百年前の人骨と紫陽のDNAが一致したことを牛尾に話してしまう。その後、京一を張っていた平間のところに牛尾が現れ襲われる。そして翌日、研究室の前に平間の骨が入った箱が置かれていた・・・
第5章 牛尾の出現で危険を感じた悠は唯を遠ざける。翌日、警察の事情聴取を受ける中で、紫陽はもともと存在していなくて、悠の幻想だと知らされる。悠はそのことを信じることができず、紫陽と暮らしていた実家に戻り紫陽が存在していた痕跡を探す。そして、ふたりの秘密基地だった、閉館した山城美術館で、母から紫陽への手紙を見つける・・・
第6章 悠は、仙波の孫を誘拐したと脅かし、仙波にループクンドの人骨の研究データを渡すように迫る。データを受取った悠は、真相のすべてを仙波から聞き出す。そして石見崎が仙波に見せたいものがあると言っていた、ある研究施設を訪れる。そこには京一がいた・・・
第7章 すべての真相が明らかにされる。しかし、牛尾を抹殺しようとした京一は逆に牛尾に殺されて、次は悠が標的となり牛尾に追われることになる・・・
エピローグ 四年後、悠は山城美術館を唯とともに寄付を募り、山城美術館を復活させる。落成式の日、悠と唯を陰から見守っていたのはある宗教団体の教祖だった・・・
【感想】
2025年第23回「このミステリーがすごい!」の文庫本グランプリの一作です。もう一作が「どうせそろそろ死ぬんだし」でしたが、「どうせそろそろ死ぬんだし」はあまり面白いとは感じませんでした。

しかし、この「一次元の挿し木」は、一気に読み進めたくなるほどの面白い展開でした。章立ては7つですが、その中は登場人物と時期の話で分けられていて、話が現在から過去に行っても混乱することなく、とてもわかりやすい構成でした。DNAが一致するというところでなんとなく真相は推測できましたが、紫陽はどうなっているのか、結末はどうなるのかという興味は最後まで尽きることはありませんでしたし、悠、紫陽、唯は、心情がよく伝わってくる魅力的なキャラクターとなっており、そういう点でも最後まで楽しめまる作品でした。また、牛尾という人物や「樹木の会」という宗教団体の絡ませ方も、違和感なく必要性もある織り込ませ方で、それが物語に幅広さや深さを与えていると思いました。仙波らがやったことは、実際にはできるのかどうか信憑性のわからない話ですが、専門的な小難しい話でもっともらしさを出しているところが無いので、それが逆にわかりやすくすんなりと受け入れられる理由だったと思います。なので、非現実的なところに気持ちを持っていかれずに、純粋にストーリーの面白さだけを楽しめました。

第23回「このミステリーがすごい!」の大賞は「謎の香りはパン屋から」という作品でありまだ読んでいませんが、この「一次元の挿し木」が大賞でもおかしくないほどの完成度を感じました。
上記はあくまで私の主観です。あとで自分がその時にどう思ったかを忘れないための記録であり、作品の評価ではありません。
また、ネタバレの記述もありますので、ご注意ください。